産後うつ病について

1) 産後うつ病とは?

・産後数週間後から起きやすくなり、産後3ヵ月頃までに抑うつ状態に陥り、物事に対する興味や楽しみを感じなくなる病気です。
・マタニティ・ブルーズと異なり一過性ではなく、2週間以上持続する状態になると産後うつ病が考えられます。


【診断基準】

※American Psychiatric Association:Diagnostic and statistical manual of mental disorders 4th edition,Text Revision,2000 (高橋三郎、大野裕、染矢俊幸(訳):DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引,医学書院,2002)から一部引用

 以下の症状のうち、5つ以上が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち1つは、「抑うつ気分」または「興味または喜びの喪失」である。

1. ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退
3. 食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加(例えば、1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加
4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
7. ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある)、(単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)
8. 思考力や集中力の減退、または、決断困難がほとんど毎日認められる
9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画


<<ケース1>>

「子どもを産んで3カ月になります。このところずっと体がだるくて、何もやる気がしないんです。 おっぱいをあげているので、食べなきゃいけないと思うんですけど、食べられない・・・。 家事も何とかしていますけど、すごく時間がかかるんですよね。実家の母に、なんだか動きが鈍くなったって言われました。子どもが泣いていてもどうしていいかわからなくなって・・・。考えがまとまらないんです。私って母親失格ですよね。この子のためにも私がいない方が良いんじゃないかって・・・。こんなこと誰にも言えないけど・・・、毎日が本当につらいです。」


2) 産後うつ病の頻度

・産後うつ病の頻度は、10%〜15%と報告されています。これは欧米における調査報告と同様の割合です。

3) 産後うつ病の原因

・生物学的要因として、内分泌環境の急激な変化がいわれています。したがって、妊娠うつ病は妊娠初期、産後うつ病は分娩後1〜2週間の発症が多いという報告もあります。

◆うつ病の発生にかかわる要因は多数で、相互に影響しあっています。
◆したがって個別要因の発症寄与度は低いと考えられています。原因探しをしても意味がありません。
◆うつ病は、さまざまな原因が互いに影響しあった結果、脳内の神経伝達物質のバランスが障害されている状態です。
◆決して「怠け」や「気持ち」の問題ではありません。
◆適切なケア、治療が必要な「病気」なのです。

※ うつ病は誰もが発症する可能性のある病気です。したがって「心の弱さ、性格、あるいは育ち方に問題があるからうつ病になる」というのは、大きな誤解です。

4) 産後うつ病の症状

・産後うつ病の特有の症状があるわけではなく、うつ病の一般症状と同じで、大うつ病エピソードの診断基準が用いられます。

5) 産後うつ病の治療

・心理的介入: まずは、母親の気持ちの変化や気分の障害をありのままに受け止めます。共感を示すこと、支持的態度が大切です。

・抗うつ薬投与が必要な場合もあります。
抗うつ薬や抗不安薬のほとんどは、母乳育児中に服用することで乳児に悪影響の懸念があると分類されていますが、報告された、または可能性のある影響はない、とも報告されています。薬物によるリスクとベネフィットを評価しながら、主治医によって使用が決定されることになりますが、母と子の健康にとってどうすることが最も望ましいか、母親自身が納得して治療に臨めるように十分に説明することが大切です。

・妊娠期の抗うつ薬服用による胎児への影響について確立した見解はありません。
ただしパロキセチンに関しては心奇形の発生率を増加させるとの報告が、またSSRIを妊娠後期に使用すると新生児遷延性肺高血圧症の発症率の増加や離脱症状、新生児適応障害の報告があります。ただし妊娠期の抗うつ薬の中断によるうつ病の悪化は母子双方に不利になるために、リスクとベネフィットを考慮して、薬剤の使用を検討する必要があります。
(参考文献:櫛田賢次他監修:妊娠・授乳とくすりQ&A、じほう、2008)
(リンク : 国立成育医療センター

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